映画原作「ロード・オブ・カオス」を読んで、社会と文化を考える
ノルウェーのブラックメタルバンド「メイヘム」にまつわる事件などを描いた映画「ロード・オブ・カオス」のBlu-rayとDVDが出た。
メタラー(ヘヴィメタルのファン)を中心に、結構な話題になった映画だ。
ところで、映画は青春群像劇らしい(ただし一般のそれとはかけ離れた内容)が、原作はドキュメンタリーなのだ。
それが今回の本「ロード・オブ・カオス ブラックメタルの血塗られた歴史」だ。
どんな本?
この本は、ポピュラー音楽と悪魔の関係に始まり、ブラックメタルの歴史、ノルウェーのブラックメタルシーンでの教会放火や殺人などの事件、ブラックメタルの思想、ノルウェー以外でのブラックメタルと悪魔主義に至るまで、当事者のインタビューを交えて書かれたドキュメンタリーだ。
情報量、迫力ともに申し分なし!
ページ数自体も多いけど、中身はそれ以上に濃い。
ノルウェーのブラックメタルシーンの重要人物はもちろん、最初のメタルバンド「ブラック・サバス」のギーザー・バトラー、ブラックメタルのルーツといわれるバンド「ヴェノム」のメンバー、同じくブラックメタルのルーツ「バソリー」のリーダー:クォーソン、無神論悪魔主義(一体何なのか私にはわかりませんが…)を唱えた団体「サタン教会」の開祖アントン・ラヴェイ、さらにはキリスト教関係者に至るまでのインタビューが載っている。
取り上げる話題もいろいろ。
ヘヴィメタルや悪魔主義はもちろん、北欧神話、ノルウェーのポップカルチャー、現代ノルウェーでのキリスト教、ネオナチ、ノルウェー以外の状況まで、かなり幅広いテーマを網羅している。
そんな幅広い内容を扱いながらも、度を越した脱線はなく、一つ一つの話題が説得力を持って、読者の中に飛び込んでくる。
純粋だった、それ故に…
この本には、凶行に走ったブラックメタラーたちが、なぜ罪を犯したのかは明確には書いていない。
多分、安易に結論を出せる問題じゃないし、誰にもわからないのかもしれない。
だから、ここに書くことは、当事者でもない素人の推測でしかない。ぜひあなたも読んで、自分なりに考えてみてほしい。
(以下、文字が紫の部分は推測。興味ないなら飛ばしていいですよ)
多分、本来の彼らは真面目で、純粋で、本音を言えず、集団になじめない、内気な若者だったのだ。
そういう若者が社会に反発し、不満のはけ口や居場所、アイデンティティを求めて集団に入ったのかもしれない。
また、当時のノルウェーは横並び志向が強く、ホラー映画すらも極端に少ない潔癖な社会だったから、余計に反発が強まった側面もあるだろう。
また、一般に若者の心は不安定だから、人間関係のトラブルも絡んでいた可能性がある。
そんな彼らの人格、満たされない心、社会の歪み、若者の心理などが複雑に絡み合って、大きな悲劇を生んだ…そう考えられる。
そう考えると、キリスト教国家ではない日本でも他人事ではなく、私たち一人一人の問題なのかもしれない。
(推測終わり)
何にせよ、彼らの行いは罪には違いない。
別に「罪を憎んで人を憎まず」なんて綺麗事を言う気はないけど、「異常」に見える彼らの行動も、その背景を考えれば、案外ありふれた個人的な悲劇、社会問題の延長線上にあるのかもしれない。
…まあ、他国のことだからわりかし冷静にものを言えるんだろうけど。
これが自国のことだったら、自分も片方に肩入れして過剰反応してるかもしれない。
メタラーならずとも必読!
ブラックメタルを題材にした本ではあるけど、メタル以外の分野でも知的好奇心をそそられる話が盛りだくさんの、とても興味深い本だ。
映画もメタルも知らない人でも、ぜひ読んでほしい。
特に、社会と音楽の関係、宗教の影響力、少年犯罪、テロなどについて考えたい人には、とてもいいヒントになるだろう。
もちろん、純粋にドキュメンタリーとしても楽しめる。
ただ、あらかじめメタルについての知識があったほうがわかりやすいかも。
しかも分厚い本だから、わからないバンドやジャンルをネットで調べながらゆっくり読むのがいいと思う。
最後に一応言っておくと、ブラックメタルはヘヴィメタルの過激なサブジャンルの一つで、ヘヴィメタルの全てが危険ではないし、この本に書かれているような事件を起こすのは、ブラックメタルの中でも一部の過激派だけだ。
聴きやすいメタルもあるし、メタルミュージシャンやファンの多くはいい人なので安心してほしい。